VitaminH

栄養補給

ファーストキス 銃兎×二郎

ファーストキス









濁った月明かりが僕たちを照らしていた。





「銃兎さん、俺、今まで幸せでした。ほんと」




『ええ。私もです。』




濁っていたのは月ではなくて空気が悪い車内だから



タバコの煙のせいか、溢れてくる涙のせいか、全部が歪んで見えた。




『今日は夜遅くまでありがとうございました。また連絡します。



恋人じゃなくなったとはいえ、遠慮なく連絡してきていいですよ。』





そうだ、俺はついさっき最愛の人から別れを告げられたばかりだ



なのに銃兎さんはさっきと今と顔色を変えず淡々と俺にしゃべりかけている



同じ空間にいて同じ時間を過ごしてるはずなのにどうしてこんなに違うんだろう





「あ、あの、銃兎さん。なんつーか・・楽しかったですか?あ、いや違うなこんなことを聞きたいんじゃなくて・・」



『先程も伝えましたが、私は貴方が好きです。だから付き合いました。」



「そ、そーっすよね。い、いやなんか変なこと聞いてすみません!今日はありがとうございました!


俺、めっちゃ嬉しかったです!銃兎さんと一緒に入れて、その、付き合えるってなって


毎日わくわくしゃちゃって!いや、これからも会ったり遊んだりしましょうね!」




『ええ。これからも、よろしくお願いします。』



思えば俺の愛しい人はとても優しい人だった



毎晩俺の電話に出て他愛のない話をした。思い返せば俺しか喋ってなかったな。



いつも車で迎えに来てくれて夜にドライブをした。硬いシートと優しい空間の間で俺は言葉にできない幸せを感じていた。



好きだというと、ふっと笑って手を握ってくれた。



革の手袋の向こうからでも伝わる体温に鳥肌が立って、心臓が震えた。



どんなに



「なぁ、銃兎さん、俺・・」



泣くな、俺、泣くな




「俺、やっぱり・・嫌だよ・・銃兎さん・・」




違う、こんなこと言ったら、こんなことを言いたいんじゃない




「俺、嫌だ・・ヒグッ・・好きだ・・」




『だから子供は嫌いです。』



「ごめっ・・ごめんなさッ・・い」



『いい加減にしてください。』



「ごめんっ・・・・うッ・・くッ・・・・・!?!?」





沸騰して何も考えられなかった頭がぐらんと大きい力で傾いて



初めての感覚が唇に走った



いや、初めてじゃない。



ひんやり冷たい厚みの向こうから温度が伝わって、心臓が震えた



これは・・








『ファーストキス、そしてラストキスですね。



私を忘れられない魔法です。』



















あの日から時間が経った



俺は恋人もできずに毎日仕事やバトルで大忙しだ。



あの夜の出来事を忘れられないでいる。



濁った月明かりも、唇の感触も、苦い味も。



なあ銃兎さん。



もう、魔法を解いてくれ。



俺はもうそんなものがなくても



あんたのことで全身が焼かれそうだ



きっとあんたは忘れて欲しくなかったんだろ



今の俺だったらその気持ちがわかるよ。



「おー二郎今日は休みで家にいるんだろ?」



「わりーにーちゃんちょっと出かけてくる!」



「夕飯までには帰れよ」



「おーす!」










もう一度、ファーストキスからはじめよう。



fin