VitaminH

栄養補給

Black to White 独歩×一二三

Black to White     





正しい道を歩いてきたと言われたらそうかもしれない


俺の生き方を否定するなんて現代を否定するようなものだ






正しい時間に起きて正しい仕事をして正しい言葉で正しい上司が正しく説教をする


正しい時間に帰る正しい時間に寝る正しい明日がくる


そう、刻々と、黒々とマス目を綺麗に塗りつぶす緩急のないゲーム








この世を描く色は二色しかない









もっと綺麗に黒は黒らしく塗りつぶして白が映えるように


ほら、綺麗に映える白を憎んで、また正しく黒を塗ろう


悲観しているのではない。二択しかないこの世の中を泳ぐだけ。









ーーーー違いますよ、君の中に二択しかないだけで、世界はもっと広がっています


俺は間違った“正論”が好きだ


正しいと言われるモノが人によってモノによって環境によって美しく綺麗になればなるほど


正しい俺が正しい俺が正しい俺が強固に頑丈に深海を我がものとする鯨のように口を開けて


すべてを飲む干す感覚、気持ちいい、











気持ちいい、だから


許されたいわけでも許したいわけでもないこの感覚を


認めないでくれ


その通路は行き止まりだ


これは俺だけに与えられた無数の俺が俺であるため俺を否定するため


生ぬるい自分を否定も肯定もできないその曖昧さを


認めないでくれ













混ぜちゃだめだ線を太く引いて境界が溝を愛してやまない世界だ


正しいじゃないか汚いじゃないか


神様みたいに笑うな


その笑い声は不要だ。地獄が地獄であることに


叫ぶように柔らかく押し寄せる波に


正しさを否定しない君に


分断する境界を綺麗だと笑う君に


間違った君を俺の正しい世界が照らされるでもない包まれるでもない守られるでもない









ただ、そこにいたんだ。







愛しい温度のある折れそうな背丈冷たい手首の息吹


どこまで一緒にいたの?


始めから一緒だったの?


あぁ、正しい世界に君は最初から、俺は最初から


間違った俺を溺れさせて楽しんで生きていたんだね


なんて完璧な灰色でリアルな











俺のかわいい恋人



揺れる麦畑を背負う髪


茶色い影と交差して見え隠れする滑らかな額


夕凪よりも仄かな頬


むき出しの血管が景色を弾く朱色の唇




俺の世界でただ一つの極彩色の恋人


希望じゃない救いでもない未来じゃない間違った正しい世界












この世を描く色は二色しかない


俺とお前。













胸が苦しい


今日もきっと眠れない


間違った明日が来る。



fin.