VitaminH

栄養補給

KARTE:Ⅰ 観音坂独歩の場合 左馬刻×独歩

KARTE:Ⅰ 観音坂独歩の場合









ーーー不眠が続いていると





「はい、ちょっとまた薬が効かなくて」





ーーー処方した分量は守ってますか





「・・はい。あ、いや・・たまに忘れることがあって」





ーーー君の悪い癖ですよ。





「いや、なんか副作用というか、ど、動悸が・・あの・・」





ーーーふむ。苦しさを感じていると





「その・・薬のせいにしちゃうのが良くないですね」





ーーー・・・・





「あ、先生、そのなんていうか・・」





ーーーはい。





ーーー薬のせいにするほかの理由、ですか?





「っっ・・・!!あっ・・」





ーーーごめんね。最近の君を見ているとどうもね。





「す、すみません。なんかバトルに支障とか出ていましたかっ・・」





ーーーいや、君のリリックは今までと変わらない、むしろ進化している





ーーー表層的な身体的事由とはまた別な部分で何かあると思って





「・・先生は、その、」





ーーーなんだい?





「あ、あっ・・・・碧棺さんと旧知の仲だと!!!・・聞き及んでまして」





ーーーええ、とはいっても数年前からだから古いと言えるかどうか





ーーー何度か君も面識があると記憶していますが、彼がどうかしましたか





「その・・僕もよくわからなくて・・」





ーーー彼が分からない?





「いや、とてもクールで・・なんというかこ、怖くて・・最初は、その僕怯えてて」





ーーー傍から見ても相当怖がっていたように見えましたね





「実は、その、一二三にも言ってないんですけど、最近よく碧棺さんと会うんです」





ーーー私用で?





「いや・・用があると思って出向くんですけど・・特筆して何か用があるというわけではなくて」





ーーーへえ。





「なんていうか、ただしゃべっているだけなんですけど・・その・・」





「あ、碧棺さん・・その・・・せ、先生の話とかをされるので・・。」





ーーー私の話





「ぼっ・・ぼくじゃなくて先生と本当は会いたいのではないかと」





「なんか、先生に言うのも違うかなっておもっ・・て・・・そっ・・あっ・・あの」





ーーー観音坂くん、落ち着いて、





「すみっ・・あっ・・すみません・・」





ーーーそれで、眠れないと





「は・・・はっい・・・・」





ーーーふむ。





「っはあ・・すみません・・」





ーーー構わないよ





「・・最近、碧棺さん、よく笑うんです。初めはあんなに怖いイメージだったのに、とても暖かいひとで」





「いや、ヤクザなんて今でも怖いですし、なれないんですけど、いわゆる人情というか・・そういう部分が見えてきて」





「い、いや仲はよくないんですよ。よく怒られますし、でも、ほらぼ、僕影が薄いから人によくぶつかるんですけど」





「碧棺さんその度に怒るのかと思ったらぶつかった肩をきにしてくれて」





「な、なんかイメージ違うなって思って」





「肩をよく組まれるんですけど、なんていうか意外と華奢で肌なんて女の人みたいに白くて」





「その時ふときれいですねって言ったらちょっとの間口をきいてくれなってしまって」





「・・だめですね。やっぱり僕は碧棺さんをどうしても怒らせてしまう。」





ーーー左馬刻くんが・・ね





「あっあっ・・すみませんなんかしゃべりすぎましたね・・」





ーーー観音坂くん、すまないね。診療時間がまもなく終わりそうなんだ





「っは!すみませんすみません・・ただでさえお忙しいというのに時間を取らせてしまって





ーーー今日はちゃんと薬を飲むように





ーーー来週同じ時間にまた会いに来てください





ーーーそれと、今日はもう遅いからタクシーで帰りなさい





ーーー入口で待っていれば・・・君がわかるように手配しておくから





「っそんなそんなそんな!ち、近いので帰れますよ。大丈夫です!」





ーーーいや、いいんだ。まだ少し寒いしここは新宿だ。こんな時間じゃ肩をぶつけて因縁をつけられるともかぎらない





ーーー君は大切な患者さんだ。大切にしなさいと・・まぁ、よく、怒られるもんでね。





「あっ。あの婦長さんとかですかね!あの方怒られると怖いですよね。あっ違います!怖いじゃなくて、愛がある優しい方ですよね!」





「先生・・不躾なことばかり言ったのに・・ありがとうございます。ありがとうございます。」





ーーー時に観音坂くん、明日は休みかい?





「え、ええ、ああ、そういえば久しぶりに休みなんです。」





ーーーいい休日をね。






「ーーーーーはい!先生も!」












KRTE:Ⅰ 観音坂独歩の場合   fin.

Black to White 独歩×一二三

Black to White     





正しい道を歩いてきたと言われたらそうかもしれない


俺の生き方を否定するなんて現代を否定するようなものだ






正しい時間に起きて正しい仕事をして正しい言葉で正しい上司が正しく説教をする


正しい時間に帰る正しい時間に寝る正しい明日がくる


そう、刻々と、黒々とマス目を綺麗に塗りつぶす緩急のないゲーム








この世を描く色は二色しかない









もっと綺麗に黒は黒らしく塗りつぶして白が映えるように


ほら、綺麗に映える白を憎んで、また正しく黒を塗ろう


悲観しているのではない。二択しかないこの世の中を泳ぐだけ。









ーーーー違いますよ、君の中に二択しかないだけで、世界はもっと広がっています


俺は間違った“正論”が好きだ


正しいと言われるモノが人によってモノによって環境によって美しく綺麗になればなるほど


正しい俺が正しい俺が正しい俺が強固に頑丈に深海を我がものとする鯨のように口を開けて


すべてを飲む干す感覚、気持ちいい、











気持ちいい、だから


許されたいわけでも許したいわけでもないこの感覚を


認めないでくれ


その通路は行き止まりだ


これは俺だけに与えられた無数の俺が俺であるため俺を否定するため


生ぬるい自分を否定も肯定もできないその曖昧さを


認めないでくれ













混ぜちゃだめだ線を太く引いて境界が溝を愛してやまない世界だ


正しいじゃないか汚いじゃないか


神様みたいに笑うな


その笑い声は不要だ。地獄が地獄であることに


叫ぶように柔らかく押し寄せる波に


正しさを否定しない君に


分断する境界を綺麗だと笑う君に


間違った君を俺の正しい世界が照らされるでもない包まれるでもない守られるでもない









ただ、そこにいたんだ。







愛しい温度のある折れそうな背丈冷たい手首の息吹


どこまで一緒にいたの?


始めから一緒だったの?


あぁ、正しい世界に君は最初から、俺は最初から


間違った俺を溺れさせて楽しんで生きていたんだね


なんて完璧な灰色でリアルな











俺のかわいい恋人



揺れる麦畑を背負う髪


茶色い影と交差して見え隠れする滑らかな額


夕凪よりも仄かな頬


むき出しの血管が景色を弾く朱色の唇




俺の世界でただ一つの極彩色の恋人


希望じゃない救いでもない未来じゃない間違った正しい世界












この世を描く色は二色しかない


俺とお前。













胸が苦しい


今日もきっと眠れない


間違った明日が来る。



fin.

ファーストキス 銃兎×二郎

ファーストキス









濁った月明かりが僕たちを照らしていた。





「銃兎さん、俺、今まで幸せでした。ほんと」




『ええ。私もです。』




濁っていたのは月ではなくて空気が悪い車内だから



タバコの煙のせいか、溢れてくる涙のせいか、全部が歪んで見えた。




『今日は夜遅くまでありがとうございました。また連絡します。



恋人じゃなくなったとはいえ、遠慮なく連絡してきていいですよ。』





そうだ、俺はついさっき最愛の人から別れを告げられたばかりだ



なのに銃兎さんはさっきと今と顔色を変えず淡々と俺にしゃべりかけている



同じ空間にいて同じ時間を過ごしてるはずなのにどうしてこんなに違うんだろう





「あ、あの、銃兎さん。なんつーか・・楽しかったですか?あ、いや違うなこんなことを聞きたいんじゃなくて・・」



『先程も伝えましたが、私は貴方が好きです。だから付き合いました。」



「そ、そーっすよね。い、いやなんか変なこと聞いてすみません!今日はありがとうございました!


俺、めっちゃ嬉しかったです!銃兎さんと一緒に入れて、その、付き合えるってなって


毎日わくわくしゃちゃって!いや、これからも会ったり遊んだりしましょうね!」




『ええ。これからも、よろしくお願いします。』



思えば俺の愛しい人はとても優しい人だった



毎晩俺の電話に出て他愛のない話をした。思い返せば俺しか喋ってなかったな。



いつも車で迎えに来てくれて夜にドライブをした。硬いシートと優しい空間の間で俺は言葉にできない幸せを感じていた。



好きだというと、ふっと笑って手を握ってくれた。



革の手袋の向こうからでも伝わる体温に鳥肌が立って、心臓が震えた。



どんなに



「なぁ、銃兎さん、俺・・」



泣くな、俺、泣くな




「俺、やっぱり・・嫌だよ・・銃兎さん・・」




違う、こんなこと言ったら、こんなことを言いたいんじゃない




「俺、嫌だ・・ヒグッ・・好きだ・・」




『だから子供は嫌いです。』



「ごめっ・・ごめんなさッ・・い」



『いい加減にしてください。』



「ごめんっ・・・・うッ・・くッ・・・・・!?!?」





沸騰して何も考えられなかった頭がぐらんと大きい力で傾いて



初めての感覚が唇に走った



いや、初めてじゃない。



ひんやり冷たい厚みの向こうから温度が伝わって、心臓が震えた



これは・・








『ファーストキス、そしてラストキスですね。



私を忘れられない魔法です。』



















あの日から時間が経った



俺は恋人もできずに毎日仕事やバトルで大忙しだ。



あの夜の出来事を忘れられないでいる。



濁った月明かりも、唇の感触も、苦い味も。



なあ銃兎さん。



もう、魔法を解いてくれ。



俺はもうそんなものがなくても



あんたのことで全身が焼かれそうだ



きっとあんたは忘れて欲しくなかったんだろ



今の俺だったらその気持ちがわかるよ。



「おー二郎今日は休みで家にいるんだろ?」



「わりーにーちゃんちょっと出かけてくる!」



「夕飯までには帰れよ」



「おーす!」










もう一度、ファーストキスからはじめよう。



fin